❅·̩͙75 ページ35
『せっかくだからどっか寄って帰るか』
事務所を出て
私の頭に手を乗っけた渡辺が言った。
夕日が沈みかけている時刻。
もうすぐ、月が見える。
｢…海｣
『いいじゃん。あの日行けなかったし』
同じことを思っていた事実に少し嬉しくなる。
ヘルメットをん、と差し出された。
受け取ろうとしたらその手が遠ざかる。
睨んでみたらニヤニヤしていた。
｢…ノーヘルで乗っていいの？｣
『だめ』
ふわりと渡辺の甘い香りがして
私の手は宙に浮いたまま頭にヘルメットが被さった。
すごく近い距離にいる彼に一気に鼓動が早くなる。
顎のところでストラップを調整してくれる動作ひとつ、
髪の毛を後ろに持ち上げる動作ひとつ、
素肌に触れられる度に跳ね上がる。
『行こっか』
｢はい、｣
『なんで敬語なの笑』
私ばかり。
彼はこんなこと、何も思ってないのに。
後ろで風を浴びていたら
建物が徐々に少なくなっていって
だんだん視界が開けていく。
光が消えて、闇が濃くなる。
渡辺がバイクを停める頃には完全に太陽は姿を隠した。
停まってすぐにヘルメットを外したら
振り向いた渡辺がなぜか頬を膨らませている。
｢…え、なに｣
『涼太とめめには、停まっても
しばらくくっついてたって聞いたのに』
｢故意じゃない、ボーッとしてただけだし｣
『…ふーん』
何やら不服そう。
渡辺ってほんとに感情がモロに顔に出る。
砂浜に足を沈めて並んで歩いた。
ちょうど2人分座れそうな丸太が転がっていて
渡辺がそこに座る。
なんとなく、私も隣に座った。
1人で来る海ほどに満たされるものはないと思っていたのに
1人で来ていた時より安心する。
｢ねぇ｣
『歌えって？』
｢…よくわかったね｣
彼と見る景色には彼の歌声が欲しくなるのだ。
『Aちゃん、俺の歌だけは好いてくれてるよな』
歌だけじゃない、と言えればよかった。
でも言えば全て壊してしまいそうだった。
｢…歌って｣
『いいけど、交換条件』
体の横に置いていた手。
小指だけがそっと触れる。
『今日さぁ、1回だけ名前で呼んだじゃん。俺のこと』
｢そう、だっけ｣
とぼけているのではなく本当に記憶がなかった。
呼んだか？いつ？
『あれすっげーよかったの。だから、これから名前で呼んで』
｢無理かも｣
『じゃあ俺も歌無理』
そう言って、黙ってしまった。
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カジャ(プロフ) - りんごさん» ご愛読ありがとうございます。なかなか進みませんね…精一杯の勇気を振り絞ってあれだったようです笑 楽しんでいただけているなら嬉しいです。 (5月2日 20時) (
レス) @page36 id: c91b141c55 (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - お疲れ様です！くっつかへんのか〜ぃの前に、ハグだけか〜ぃ！って海のとこで叫びましたꉂ🤣ワクワクしながら待ってマス！ (5月2日 20時) (レス) @page41 id: ba11269092 (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - すれ違ったふたりが戻ってきて安心しましたーヽ(；▽；)ノ空気感、好きです♡ (4月29日 22時) (レス) @page36 id: ba11269092 (このIDを非表示/違反報告)
カジャ(プロフ) - りんごさん» 大変申し訳ありません、ご指摘感謝致します。 (4月12日 18時) (レス) id: c91b141c55 (このIDを非表示/違反報告)
りんご(プロフ) - カジャ様、ワクワクしながら拝見してます⋆♡もしかしてですが、45と48が抜けております。 (4月12日 13時) (レス) id: ba11269092 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：カジャ
| 作成日時：2024年4月11日 19時
